第3回「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」入選作品

銀賞 お空の上にいる愛しきのぶちゃんへ

丹羽 佳岐(栃木県日光市)49歳

お空の上にいる愛しきのぶちゃんへ のぶちゃんはお空の上で今、何をしていますか。

保育園から、のぶちゃんが心肺停止で冷たくなってると連絡を受けてから丸三年が経ちました。そして、今年三月の誕生日で満四歳になりましたね。のぶちゃんは、一度も自分の誕生日を祝うことなく、お空へ旅立ってしまったけれど、のぶちゃんがいなくても、毎年お祝いしているからね。今年はバースディケーキに四本のロウソクを立てて、いつものように記念写真を撮ったよ。

のぶちゃんと共に過ごした九ヵ月間、おとうさんにとって、人生で一番幸せな日々を過ごす事ができました。毎日欠かすことなく一緒に入ったお風呂でのひとコマ、二人きりで乗った大きな観覧車、のぶちゃんを背負って出掛けたハイキングなど、たくさんの想い出が残っています。今でも、のぶちゃんのおむつやミルク、洋服などが、いつ戻ってきてもいいように、部屋にそのまま置かれているんだよ。

のぶちゃんは、とてもお利口で、夜泣きはもとより、ぐずることもあまりせず、人の話を真剣に聞き、うんちもトイレでするようになりましたね。こんな赤ちゃんがいるのかと、みんなに驚きを与えてきましたね。
でも、のぶちゃんはまだ小さかったから、言葉をしゃべることができず、「パパ」「ママ」って呼ばれたこともなかったし、つかまり立ちが出来るようになったばかりで、あんよして一緒にお散歩にも行けなかった。キャッチボールをしたり、スキーや旅行に行ったり、のぶちゃんともっといっぱい、いっぱい遊びたかった。ランドセルを背負って小学校に通うのぶちゃんも見てみたかった。

のぶちゃんがお空に旅立った時、おとうさん、寂しくて、悲しくて、悔しくて、のぶちゃんを守れなかったことが、悔しくて、情けなくて、ごめんね、のぶちゃん。おとうさんが、のぶちゃんの生命を守ることができていれば、今も一緒に遊べていたはずなのに、大人として、父親として、どんなことがあっても守らなければならない生命を守ることができなくてごめんね。

のぶちゃん、もう一度、おとうさんとおかあさんのもとへ戻ってきて、一緒に遊ぼう。一緒にお風呂に入ろうよ。ねぇ、のぶちゃん。
もし、のぶちゃんが戻ってきてくれるのなら、おとうさん、絶対にのぶちゃんの生命を守るから、約束するから、必ず戻ってきてね。

銀賞 教え子よ!

渡会 雅(千葉県柏市)62歳

『邦人、ヨーロッパアルプスで滑落死』――ある朝、小さな新聞記事の中の教え子の名前に釘づけになった私は、一瞬戸外の蝉の鳴き声がそそり立つ岩壁にこだまするような気がした。その一ヵ月程前、私は彼とレストランで食事をしたばかりだった……。

高校時代に自転車で日本一周、大学には進学せず、ビルの窓拭きで資金を稼ぎ、世界の山を次から次へと制覇していたソロクライマー。専門誌に載る彼の登攀記録を読む度、植村直巳の跡継ぎはこいつしかいないと思ったものだ。
片手で懸垂が出来る太い腕、真っ黒に日焼けした顔、粗末な衣服。
「お前、何でもいいから注文しろよ」
「じゃあ、ステーキにしていいですか?」
肉を貪りながら、事も無げに語る死と紙一重の山行。その日もモンブランで宙吊りになり、ヘリで救助されたときの代金を保険で支払うため、請求書のドイツ語の分かる人を紹介してほしいと私の所に来たのだった。
「じゃあ、Mに頼めば良かろう。彼女、大学でドイツ語専攻だよ」
中学時代、文化祭で映画をつくることになり、校舎の屋上から飛び降り自殺する悲劇の主人公役を買って出たK。そのクライマックスの撮影で笑い出してしまう。
「だって、先生、Mの涙が嘘っぽくてさあ。水でごまかすんじゃなくて、僕が死ぬんだから本当の涙を流してほしいよ」
ポニーテールに髪を編んだ美少女のMは、「だってー」と顔を真っ赤にする。きっとKが好きだったのだろう。

教え子よ! 斎場の入り口、岩壁に素手でしがみつくKの大きな絵の前でMが泣いている。
「先生、私、事故の前に彼からのプロポーズを断ったの。でも、その所為じゃないよね」
「そんなことがあるものか」と彼女の肩に手を置いて、私はKの生前の言葉を思い出す。
「人に見向きもされなくていい。何も考えずただひたすら登る」、「女の人はマッターホルンよりも手強い」、そして、何よりも「僕は僕で良かった」――彼がテレビのノンフィクション番組の中で口にした名言。

Kよ、Mへの雑念が君の死を招いたんではないよな? 単なる事故だったんだよな? もし、誰かの所為であるとしたら、それは登山などに興味を抱かせてしまった私だろう……。

銅賞 二人で見ていたカボチャ作りの夢、続いてますよ

岩崎 とし子(北海道虻田郡)52歳

今年もまた、深い、深い雪の中でハウス作りからの、農作業がスタートしています。

五年前の暑い、暑い夏の日に、突然の病で畑で倒れたあなた。治って秋までには帰るんだと、あなたも私も信じて疑いもしなかったのに、入院から一週間後に、あなたは五十歳と言う短い生涯を突然終えてしまいましたね。
短い入院中の中で、心配するのは畑の事ばかりだった、あなた。

あなたが、逝ってしまった後、周りの誰もが、私が「離農」するのだろうと信じて疑いませんでした。
どうして、あなたと二人で歩んで来た、この道を諦める事が出来るのでしょう?

「カボチャ作りで、日本一に成ろうね」
「カボチャのイベントもしたいよね」

二人で見ていたカボチャ作りの夢、続いてますよ HPを立ち上げ、ブログを開設し、カボチャママを名乗り・・。あなたと、二人で見続けて来た夢ですもの。ひとりになったって…諦めきれなかった私でした。

カボチャを作ろう!我が家のカボチャのファンの皆さんに励まされ、立ち上がった初年度の春。失敗も一杯、一杯しました。もちろんね。

今も、失敗の方が多いのかも知れません。でもね。今も、周りの色んな方々に助けられながらも、五年目の春がスタートしています。

「食用カボチャ」で日本一の夢は、まだ叶いそうに有りませんけど、「カボチャのイベント」は、お蔭様で五年目を迎えていまよ。

ありがたい事に、あなたを亡くした悲しみも、カボチャ作りで、少しずつ癒されて来ています。

あなたに出会逢えて、一生涯の夢を持つ事が出来た事を、感謝しなくちゃね。
ありがとう。

どうか、これからも、そこから、私のカボチャ作りを見守っていて下さいね。

東日本大震災関連特別賞 銘石の人

熊谷 勲(東京都荒川区)77歳

栄ちゃんと奥さん、陸前高田を去ってもう一年を越えちゃった。
一昨年の五月だったね、栄ちゃんと遭ったのは。横田町の「道の駅」だった。ぼくと息子と正明さん夫婦が食堂でコーヒーを飲んでたら、となりの座敷で「銘石会」があって、そこに栄ちゃんが座りこんでいた。数年ぶりだったから、ぼくはすごい懐かしかったし、嬉しかった。

銘石の人 その帰りに栄ちゃんの家に寄ったら、床が沈むほど「銘石」が並び、本棚や階段にもずらずらっと置いてある。ほんとたまげた。中には鑑定済みの六千万年前の石もあって、栄ちゃんは「北上川で拾った」って得意げに言ったっけ。それから、ぼくは栄ちゃんと奥さんを並べて記念写真を撮った。そしたら、栄ちゃんは赤石、方解石、木の化石の三つを土産に呉れたんだ。ありがとう。今、石はぼくの家の本棚にきちんと飾ってる。

しかし、栄ちゃん夫婦が津波であの世に行っちゃうなんて、どういうこと?それも、見知らぬおばあさんを助けて波に巻き込まれたっていうじゃないか。どうして人を助けたりするの?人はテンデンだよ、テンデン。無念だ、とっても。だって、ふたりの娘さんがいるんだよ、栄ちゃんには。おばあさんは助けの手を振り払ってでも、自分の命を守るべきだったんだ。

正明さんに聞いたけど、ぼくが撮った写真は焼き増しをして、町の葬儀の時に遺影として飾ったって。ぼくの写真が最後に役に立つなんて複雑な気分だ。いつも生真面目な栄ちゃんが笑って撮れてた。奥さんもエプロン姿で微笑んでいたね。

ところで、栄ちゃんの写真も流失しただろうと、東京のぼくの家で大工の修行をしてた頃の写真を娘さんに贈った。そしたら「父の頭に毛があったんだ」って感動してくれた。十七歳ぐらいなのと、二十五歳ぐらいか、高田の駅に僕たち家族を送ってくれた時の写真で、とっても若い。髪がフサフサしてる。

ぼくが高校・大学に行ってる間、栄ちゃんは岩手の中学卒で五年間大工の徒弟として苦労をしたんだ。ほんとに兄弟のように過ごしてきたけど、栄ちゃんは学校に通うぼくを羨んでいたと思う。申し訳なさが募る。

娘さんとはまだ会っていない。ぼくらがイトコ同士だということもまだ知らないだろう。会うのが辛いや。
今日はこれで。奥さんによろしく…。

第2回「あの人へ贈る言葉-今は亡き“あの人”に届けたい手紙-」入賞作品はこちら

書籍の紹介

2012年春に公募しました第3回「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」では、2,051編の応募作品をいただきました。
そのたくさんのお手紙の中から、選考委員三名と全国五十社の葬儀社からなる実行委員会が選んだ金賞1編、銀賞5編、銅賞10編、東日本大震災関連特別賞12編、佳作88編をこの書籍に収録しました。

今は亡きあの人へ伝えたい言葉3
書  籍
今は亡きあの人へ伝えたい言葉3(2012年版)
発行日
平成24年10月15日 第1刷発行
編  者
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」実行委員会
発行所
株式会社鎌倉新書
判  型
四六判286頁
ISBN978-4-907642-37-2 C0012
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